経済産業省が実施した「デジタル取引環境整備事業(電子商取引に関する市場調査)」(2022年8月12日公開)によれば、オンラインゲームの国内市場規模は年々増加傾向にあり、その規模は2021年で1兆6127億円までに達したと推測されています。(https://www.meti.go.jp/press/2022/08/20220812005/20220812005.html

特に、無料でダウンロードできるオンラインゲームでは、利用者がゲーム内で使用できるコインやアイテム等を購入し、そのコインやアイテム等を使ってゲームを効率よく進めたり、イベントに参加できたりするような仕組みが設けられていることが多いといえます。

このようなコインやアイテム等が、資金決済に関する法律(「資金決済法」)上の「前払式支払手段」に該当する場合には、同法の適用を受けることになり、ゲーム運営者に様々な規制が適用されます。そして、当該規制に違反した場合には、罰則の対象にもなることから、規制内容については十分に把握した上で、遵守するよう注意する必要があります。

以下、前払式支払手段の定義・種類、資金決済法上の規制(義務)について、説明します。

1.前払式支払手段とは

利用者から事業者が金銭を事前に受け取ったうえでその後の決済に利用することができる前払式支払手段については、利用者が金銭を事業者に決済の前に支払うという決済サービスの特性を考慮して、資金決済法に基づく規制の適用を受けることになります。

前払式支払手段とは、基本的に以下3点の要素を含む必要があります。

  1. 金額等の財産的価値が記載・保存されること(価値の保存)
  2. 対価を得て発行されること(対価発行)
  3. 商品・サービスの代金の支払い等に使用されること(権利行使)

オンラインゲームで使用される通貨、いわゆるアプリ内通貨は、ゲームをプレイするためや、アイテムを購入するために使用されます。そして、アプリ内通貨の額はゲーム提供者のサーバーに保存されているため、財産的価値が記載・保存されているといえ、上記①の要件を満たします。

また、アプリ内通貨が、それに相応する対価を支払うことによって発行される場合、②の対価発行の要件も満たします。

そして、アプリ内通貨が、ゲームをプレイするためや、アイテムを購入するためなど、商品・サービスの代価として使用される場合、③の権利行使の要件も満たすこととなります。したがって、一般的なアプリ内通貨であれば、上記①~③の要件を満たす場合が多く、資金決済法の規制を受けることとなります。

2.前払式支払手段の種類(「自家型」or「第三者型」)

資金決済法上の前払式支払手段には、「自家型前払式支払手段」(資金決済法3条4項)と「第三者型前払式支払手段」(同条5項)の2種類があります。

(1) 自家型前払式支払手段

自家型前払式支払手段とは、前払式支払手段の発行者からの商品やサービスの購入のみに使用できる前払式支払手段を意味します。発行者のほか、発行者の「密接関係者」でのみ使用できる場合も、自家型前払式支払手段に当たります。

自家型となるためには、前払式支払手段の発行者と、前払式支払手段を利用できる商品やサービスを提供する事業者とが一致していることが条件です。

(2) 第三者型前払式支払手段

第三者型前払式支払手段とは、発行者以外の店舗やサービス提供者での代金支払いにも使用することができる前払式支払手段を意味します。資金決済法では、自家型前払式支払手段以外の前払式支払手段と定められています。

オンラインゲーム内のコインやアイテム等については、通常そのオンラインゲーム内でしか利用できないため、基本的には「自家型前払式支払手段」に該当します。

そこで、以下、自家型前払式支払手段の発行者に該当することを前提として、発行者に課せられる資金決済法上の義務を説明いたします。

3.届出義務

「自家型前払式支払手段」は、事後届出制がとられており、基準日(3月31日および9月30日)においてアプリ内通貨の未使用残高(※)が基準額(1000万円)を超えた場合、下記4のとおり資産保全方法を採ったうえで、以下の発行届出書その他必要書類を所管する財務局へ提出する必要があります。

(※「基準日未使用残高」とは、①当該基準日(直近基準日)以前に到来した各基準日に係る前払式支払手段の基準期間発行額から、②当該直近基準日以前に発行した全ての前払式支払手段の当該直近基準日までにおける回収額を控除した額をいいます。)

【必要書類】(法人の場合)

  1. 前払式支払手段の発行届出書
    (様式は金融庁HP及び一般社団法人日本資金決済業協会HPからダウンロードすることができます。)
  2. 添付書類(前払式支払手段に関する内閣府令11条第2号)
  • 定款又は寄附行為
  • 登記事項証明書又はこれに代わる書面
  • 代表者又は管理人の住民票の抄本又はこれに代わる書面
  • 代表者又は管理人の旧氏及び名を発行届出書に併記した場合、当該旧氏及び名を証する書面 
  • 最終の貸借対照表及び損益計算書又はこれらに代わる書面
  • 会計監査人設置会社の場合、前払式支払手段の発行届出書を提出した日を含む事業年度の前事業年度の会社法第396条第1項の規定による、会計監査報告の内容を記載した書面
  • 前払式支払手段の発行の業務の一部を第三者に委託する場合、当該委託契約書
  • 密接関係者がいる場合、政令第3条第1項に規定する密接な関係を証する書面 
  • その他参考となる事項を記載した書面

上記①の発行届出書には、前払式支払手段の発行者に関する基本情報の他、発行する前払式支払手段の概要や、その写しを添付する必要があります。例えば、オンラインゲーム内で販売しているコイン・アイテムであれば、その個数と単価等の情報や、その購入画面のスクリーンショットを添付することになります。

4.資産保全義務

(1) 発行保証金の供託

前払式支払手段の発行者は、利用者から決済に利用するための金銭を前払いで受領することになりますので、例えば発行者が倒産した場合であっても、一定範囲で利用者保護を実現するため、受領した金銭を保全するための措置を講じることが求められます。

具体的には、3月末あるいは9月末において、発行している前払式支払手段の未使用残高が1000万円を超えるときは、発行保証金としてその未使用残高の2分の1以上の額に相当する額を、法務局において供託しなければなりません(資金決済法14条1項)。

(2) その他の資産保全方法

もっとも、金融機関等との間で、①発行保証金保全契約を締結しその旨を財務(支)局長等に届け出たとき、又は、②信託会社等との間で発行保証金信託契約を締結しその旨を財務(支)局長等に届け出たときは、発行保証金の供託義務が免除されます(資金決済法15条、16条)。

5.情報提供義務

前払式支払手段の発行者は、利用者が決済に必要な金銭を前払いするという特性を踏まえ、前払式支払手段を発行する際に、利用者に法定の事項を表示または情報提供する必要があります(資金決済法13条)。そこで、想定されるサービスの内容に即して、券面やウェブサイト等において必要な情報を表示または情報提供する必要があります。

【表示項目】
具体的には、以下の情報を前払式支払手段に関する内閣府令に従い表示または情報提供する必要があります。

  1. 発行者の氏名、商号または名称
  2. 利用可能金額または物品・サービスの提供数量
  3. 使用期間または使用期限が設けられている場合は、その期間または期限
  4. 利用者からの苦情または相談を受ける窓口の所在地および連絡先(電話番号等)
  5. 使用することができる施設または場所の範囲
  6. 利用上の必要な注意
  7. 電磁的方法により金額等を記録しているもの(未使用残高または当該未使用残高を知る方法)
  8. 約款等が存する場合には、当該約款等の存する旨また、アプリ内通貨の払戻しをしようとする場合にも、一定の事項につき、公告および情報提供を行う必要があります。

6.その他の義務

資金決済法は、上記の義務の他にも、情報の安全管理義務(資金決済法21条)、苦情処理に関する措置を講じる義務(資金決済法21条の2)、行政への定期的な報告義務(資金決済法23条)、業務を廃止した場合などにおける前払式支払手段の払戻義務(資金決済法20条)なども定めています。

なお、当職は、主にeスポーツ関連事業者に対して、発行するアプリ内通貨等についての前払式支払手段該当性判断や、前払式支払手段の発行に伴う法令(資金決済法、特定商取引法等)の規制に関する法的助言を行っております。

アプリ内通貨の発行等でお困りの際は、以下のリンク先を通して当職までご連絡ください。

https://sano-law.jp/contact/